マジンドールダイエットの総括
風本真吾の訓え
「たった3~5kgの体重を落とすことができなくて、コレステロール、中性脂肪、血圧、尿酸、糖尿病の薬漬けにされている人が大勢いる。現場の医師が体重管理指導に精を出すことなく、薬漬けにしているのは健康保険制度の弊害である」と、明確に指摘し、四谷メディカルクリニックは創業時からダイエット指導に力を費やしてきました。四谷メディカルクリニックが行うダイエット指導は、医療行為としてのダイエット指導であり、他のダイエット法では効果がなかった人が集まりますので、必然的に医療用の食欲抑制剤であるマジンドールを使うことがメインになりました。
マジンドールの健康保険適応は、BMI35以上の高度肥満に限られています。しかし、適正体重を維持することが健康管理の基本であるのはいうまでもなく、さまざまな人の生活体系を真正面から向き合って観察してきた私(風本)は、肥満傾向の人に「体重を減らしなさい」と押し競饅頭のように繰り返すのは有意義でないと悟っていますので、マジンドールを自由診療下で積極的に使用して、体重管理に役立てることを否定していません。
メタボリック系の医薬品を長期に内服する場合と、短期間のマジンドールダイエットによる体重管理とを比べて、どちらが健康管理上は優れているかを論じることは、各人のポリシーの問題が関与してきますが、いつの日か、明白な結論がでると思っています。既に四谷メディカルクリニックではマジンドールを使用するダイエット指導を平成4年(1992年)の創業から令和3年(2021年)末まで3546例に行い、豊富な臨床経験を積んでいます。このマジンドールダイエットを総括して「訓え」として記述します。
マジンドールの作用メカニズム
脳内には、視床下部腹内側核、外側視床下野の2つの食欲中枢があります。視床下部腹内側核は満腹中枢と言われ、「ああ、満腹だ。もう食べたくない」という気持ちを抱かせます。外側視床下野は摂食中枢を言われ、「おなかがすいた。何か食べたい」という気持ちを抱かせます。マジンドールはその2つの食欲中枢に働きかけます。睡眠薬を飲んだら眠くなるように、マジンドールを飲めば、目の前に食べ物があっても手が伸びなくなります。また、少し食べたら、「もう満足だ」という気分になって食べるのを中止してしまいます。
マジンドールの作用の特徴
- 「満腹中枢によく働くが、摂食中枢にはあまり働きかけない」
- 「摂食中枢にはよく働きかけるが、満腹中枢にはあまり働きかけない」
- 「満腹中枢、摂食中枢の両者によく働きかける」
の3パターンがあります。1.の場合は、食べようと思ったら食べ始めるけど、すぐに食べたくなくなります。2.の場合は、食べようという気になりませんが、食べだしたらそれなりに入っていきます。3.の場合は、食べる気にもならず、食べ始めてもすぐにやめたくなります。
マジンドールは投与量に応じて作用レベルが変化します(用量依存性)。1錠で作用が弱ければ2錠に、2錠で作用が弱ければ3錠に、としていけば必ずどこかで作用が現れます。男では1錠で有効なことが多く、女では2錠の同時内服でないと効果が現れないことがしばしばです。
マジンドールの効果
作用が現れる量を投与すれば、元がかなりの肥満体なら最初の1ヶ月で5kg以上の減量、元がちょっとした肥満傾向なら、最初の1ヶ月で3~5kgの減量を認めます。さらに、ミネラルのクロムを併用すれば、それ以上の減量効果が現れます。
マジンドールの耐性
マジンドールを2~3ヶ月以上連用すると、作用が減弱することがあります。1ヶ月以上の休薬期間をおけば再開時に作用が回復しています。この休薬期間を2ヶ月以上あけるべきケースも見られます。投与量が1回1錠なら比較的早く耐性が現れます。1回2錠にすると耐性が出現するまで数ヶ月以上かかります。
マジンドールの副作用とその対処
臨床経験の総括の一環として、副作用の問題に関して論じておきます。添付文書との相違もあるので、再研究の余地があると思われます。
- 口渇感と便秘は投与者の80%以上で発生し、ほぼ必発と考えてよい。2~3か月のうちに便秘は解消されることがあるが、口渇感は長く継続することが多い。この両者の副作用に対しては、桑成分を含むお茶が奏功する。直接的にのどの渇きを潤すのに加えて、桑成分のDNJ(デオキシノジリマイシン)がもつ、αグルコシダーゼ阻害作用により、軟便化させることができるからである。
- 軽いめまい感を感じることがある。マジンドールの作用で発汗などの不感蒸泄が増えるために脱水状態をきたしやすいからである。水分摂取を増やせば、この副作用は消滅する。
- 軽度の頭痛を訴えることがある。鎮痛剤の投与で対処できる。頭痛は投与後、数日から2週後までに、一時的に発生することがあるが、長期間継続することはない。
- 内服した初日には、胃部のムカムカ感を感じることがある。また、稀に発熱することがある。初日だけであるので、その旨をよくカンセリングしておく必要がある。発熱には一般の解熱剤投与が可能である。
- 内服中に口臭を訴える人がいる。唾液の分泌低下によるもので、水分摂取を増やしても満足する改善は認められず、投与を中止することになる場合が多い。
- 動物実験で依存性が認められているが、人に投与した場合に、身体依存を示した例は1例もなかった。「薬をやめると不安です」と語る精神依存は、11人に認められたが、指導すればすぐに内服を止めてしまえるレベルであった。ただし、マジンドールの提供価格が安くなると、精神依存者が増えてしまう可能性は否定できない。
- 長期連用者に、肺高血圧症の発生が報じられているが、長期連用させた例はなかったので、その発症者はいなかった。
- 稀に軽度のうつ状態を訴えるものがいる。中止すればすぐに回復した。
- 夕食前にマジンドールを内服した場合に、稀に睡眠障害を訴えるものがいるが、内服を昼食前だけに限局したら、睡眠障害の訴えはなくなった。
- 男の場合、尿閉感を訴えることがある。中止すればすぐに改善する。
- 男の場合、約半数の症例で性欲の低下、勃起力の低下を認めることがある。投薬を中止すると3日以内に回復する。
- マジンドールの直接の副作用で、発疹、かゆみなどの皮膚症状を訴えた者はいなかった。