20年以上にわたるダイエット指導を振り返ってhistory
医師は、「病気の人を治療することに関しては格別のノウハウ」を持っている。しかし、病気でない人には「早期発見、早期治療」を謳って、検査体制を構築することしかできていない。しかし、病気でない人が真に望んでいるのは、病気を早く発見してくれることではなく、病気にならないことである。
「病気にならない」という点に関して、医師が持つノウハウは極めて未熟である。
そのように悟って、四谷メディカルサロン(現「四谷メディカルクリニック」)開設を興したのが、平成4年でした。経営者に個別の健康管理指導を行うプライベートドクターシステムを創設しました。当初から、私のセミナー、講演を聞いて、多くの経営者が入会してくれました。順調に運営することができましたので、予防医学分野の研究活動を進めることができ、健康管理学の体系作り、予想医学の概念づくりができました。
この四谷メディカルサロンで、創業時に進歩したのが、ダイエット指導でした。食料を得るのが困難な戦国時代や江戸時代の飢饉を乗り越えてきた日本民族は、消費エネルギーの少ない体質の人が生き残ってきました。少ない摂取量で身体を維持できる遺伝体質ですから、逆に考えれば、食べる量がちょっと増えてしまうと、すぐに肥満をもたらすのです。
高度経済成長、バブル時代を乗り越え、グルメブームの中、肥満者が増える一方でした。金銭的の余裕がある人は、望むとおりに食べることができ、必ず太りだしてしまうのです。次の実験結果があります。
「2つのカゴに1匹ずつのラットを飼います。片方のラットには一日に所定どおりの餌しか与えません。もう片方のラットには、常に餌を配置しのべつまくなしに餌を食べられるようにしてあげます。すると、どうなるでしょうか?のべつまくなしに食べられるラットはぶくぶくと太りだし、寿命は半分になってしまいます。」
肥満がいけないのは、もはや周知の通りです。
経営者に対するダイエット指導
必然的に経営者に対するダイエット指導が、私の使命になってきました。「食べる量を減らして体重を落としてください」とありきたりに指導しても、ほとんどの経営者は「私はそんなに食べてないはずです」と頑として言い張って、聞き入れてくれません。
そこで、一言で納得させるカウンセリングトークが必要になりました。
- これから1ヶ月、何も食べなかったとします。すると、10kg以上減ってしまいます。少し食べると10kgしか減らない。もうちょっと食べると7kgしか減らない。もっと食べると3kgしかへらない。結局、今の体重を維持するだけ食べているのですよ。
- ここ数ヶ月、体重が変動しなかったとしましょう。ということは、摂取したカロリーと消費したカロリーがぴったり釣り合っているということなのです。その状態から、1日に400キロカロリーだけ少なくしてください。1ヵ月後には3kgくらい体重は減っています。
などは、頑固な経営者に対して、一生懸命に考えて生み出されたカウンセリングトークでした。
「食べなければやせる」を短期間で経験させる
そのダイエット指導で大事なのは、百の説得文を並べるよりも、「食べなければやせる」という事実をストレートに体験してもらうことでした。「そんなに食べてないはずです」と口癖のように言い張る人に対しては、意識変革を行ってもらいます。
そこで、利用したのが医療用の食欲抑制剤「マジンドール」です。内服するのを嫌がる人も多かったのですが、「1週間だけでもいいですから、試してください」と説得し、実際に使用してもらいました。「食べたいのに食べられない」という苦しみではなく、「なんとなく満足していて、食べる気にならない」「少し食べただけで、ああ満足だ。もういいや」という気分にさせられたので、心理的にも受け入れられました。
効果ありと判定したら、副作用問題を熟考することになります。内服した初日に、「胃がむかむかする」「ちょっと気持ち悪くなる」という人がいましたし、人によっては「初日に発熱する」という人もいました。しかし、初日だけの問題でしたので、あらかじめ説明しておけば問題になることはありませんでした。
心配だったのは、効果効能書きに、「ラットを使用した実験で依存性を示したケースがある」という一文でした。「身体依存があるのだろうか?となると、慎重に観察しなければいけない」と思ったものです。しかし、この不安は、マジンドールによる指導経験を積むうちに払拭されていきました。この薬は2~4ヶ月で耐性ができます。つまり効かなくなってきて、自発的にやめてしまうのです。結局、平成4年(1992年)の創業から令和3年(2021年)末までの当院の3546例の経験では、身体依存例は0件でした。精神依存はありえます。「薬を飲んでいなければ、不安になる」というものです。しかし、「しばらくお休みしなさい」と指導するとすぐに従ってくれますので、問題になることはありませんでした。
マジンドールの弱点は、喉が渇くことと、便が硬くなることです。この対策として開発したのが、桑成分を含んだお茶でした。小腸内の消化酵素αーグルコシダーゼの作用を抑制して、炭水化物の吸収率を低下させる上に、便を柔らかくする効果があります。マジンドールとの併用は効果大でした。
さて、このマジンドールの効果をさらに高めるにはどうしたらいいか、という研究へとすすみました。そこで、注目したのが、ミネラルのクロムです。脂肪細胞の一種である褐色脂肪細胞は、別名でクロム親和性細胞といわれているのは、医学会では周知のことです。クロムに反応して活性度が高まるのです。褐色脂肪細胞は、アドレナリンの作用も受けていますが、これとクロムの相乗作用が優れているのです。マジンドールはアドレナリンの分泌能力を高めるという一面作用を持っています。したがって、クロムとの相性は抜群でした。マジンドールとクロムの併用でダイエットペースは速まりました。
健康保険では、マジンドールは1回で1錠(0.5mg)で1日3錠まで、という使用制限がありました。しかし、1回1錠だと効かない人も多くいるのです。そこで、マジンドールを研究開発したアメリカの文献を調べました。すると、研究段階では、1回に2mg、つまり、日本の4錠分を一度に投与していたのです。これらの文献と、私の実体験を重ね合わせた結果、初日は1回1錠、2日目からは1回2錠というスタンダードな投与方法へと切り替えました。
そのようにして、マジンドールの使用ノウハウは高まっていきました。
さらに、ダイエット希望者の嗜好性、体重変化の履歴、生活様式、脳内傾向、遺伝体質傾向、食事内容などを診察時に聴取し、各個人に合わせた適切なアドバイス体系を築き上げました。その過程で、研究された内容が、「お医者さんが考えた朝だけダイエット」(三笠書房)、「知的ダイエット」(マキノ出版)、「長生きダイエット」(サンマーク出版)、「男の腹やせダイエット」「女の腹やせダイエット」(メディカルサロン出版)などの書籍になっています。
長年の大量の経験を経て、マジンドールダイエットは、安全に指導できるダイエット手法になっています。